塩素化反応触媒能をもつ人工金属酵素を理論設計する

研究者紹介

研究代表者
齋藤 徹
広島市立大学
情報科学研究科

研究概要

塩素は、炭素、水素、窒素、酸素に次いで医薬品に多く含まれる元素である。生体触媒を活用して塩素基を自在に導入できれば、産生可能な化合物の数が増加し、医薬品開発が加速することが期待される。本研究では、豊富に存在し、水酸化反応を触媒する単核非ヘム鉄酵素ヒドロキシラーゼを機能改変して、塩素化触媒能を付与することを目的とする。ヒドロキシラーゼ反応中間体が本来の水酸化反応ではなく選択的塩素化反応をもつためには、以下の(1)〜(3)を満たすような変異導入による活性部位の配位構造の変化が必要であると考えている。
(1)基質炭素ラジカルと塩化物イオンの距離が近い
(2)基質炭素ラジカルの軌道とFe–Clの反結合性軌道のエネルギーが近い
(3)再結合の活性化自由エネルギーが低い
この作業仮説を検証すべく、まず、これまでに発見されたハロゲナーゼおよび改変されたヒドロキシラーゼの反応中間体のモデリングを行う。(1)〜(3)に対応する計算データに加えて、基質のC-H結合の強さ、酵素との結合親和性などの種々の計算データを収集する。分子ドッキング計算から自由エネルギー摂動法、量子/古典混合分子動力学計算に至る様々な計算手法を適切に用いて実施する。次に、選択的塩素化反応の向上に重要となるパラメータを見出すとともに、改変部位を予測するモデル(予知システム)を構築する。予知システムを用いて予測、設計、評価を繰り返すことで、塩素化触媒能の向上を図る。