多コピー生物のアイソフォームと酵素近接性に注目した生合成反応効率の変動予測

研究者紹介

研究代表者
長由扶子
東北大学
農学研究科

研究概要

サキシトキシン(STX)は強力な電位依存性ナトリウムチャネルの阻害剤であり、STX及び類縁体(STXs)で汚染された海産物(主に二枚貝)を摂食したヒトに麻痺性の中毒症状を引き起こす。麻痺性貝中毒は近年観測数が増加しており、世界中で深刻な問題となっている。リスク軽減には真の生産者である渦鞭毛藻におけるSTX生合成の理解が不可欠である。渦鞭毛藻の生合成酵素の遺伝子はゲノム中に多コピー存在することが分かっており、アイソフォーム毎に異なる反応性を有する可能性がある。免疫染色による生合成酵素局在解析では酵素同士の発現や近接性が系全体の進行に影響するという感触が得られている。また最新の代謝フラックス研究ではSTX生合成にデノボ優位の生合成と再利用優位の生合成が異なる制御をうけており、両者の合計が生合成反応効率(=毒性)を決定していることが予想された。本研究では1.STX生産渦鞭毛藻のロングリードNGS解析、2.生合成酵素アイソフォームの発現タイミング及び近接性の変動解析、3.STX生合成関連化合物の代謝フラックス解析によって得られるデータを用いて、複数の要因に応答したSTX生合成反応効率の変動を予測するモデルを構築することを目的としている。本研究の成果は将来的に気候変動による渦鞭毛藻類の高毒化のリスク予測につながるだけでなく、同様な多コピー生物の生合成反応効率予測へとの展開も期待できる。