大環状化機構の移植による新奇環状中分子化合物の創製に関する研究

研究者紹介

研究代表者
工藤慧
産業技術総合研究所
生命工学領域

研究概要

近年の医薬品開発において、中分子化合物 (分子量500程度以上) は、低分子医薬と抗体等高分子医薬の間を埋める新たな創薬シーズとして注目されています。中でも大環状天然化合物は、環構造によってコンホメーションの自由度が制限されていると同時に、適度な柔軟さを持つことで、豊富な生物活性を示す化合物として中分子化合物ライブラリーを構築するための優れたリソースと考えられています。

中分子天然化合物は多くの場合多数の不斉点を有するため、化学合成による構造多様化が容易ではありません。そのため生合成を利用した新規物質の創出手法が望まれてきました。しかし代表的な中分子生合成機構であるI型ポリケタイド合成酵素 (PKS) 遺伝子は多数の繰返し配列からなる巨大遺伝子であるため、一般的な遺伝子操作手法では正確な遺伝子の改変すら困難という技術的ボトルネックが存在していました。近年我々は、I型PKSを改変する新しい遺伝子工学的技術を開発し、多数の骨格改変化合物を創製することに成功しました (K. Kudo, et al. Nat. Commun. 2020等)。本研究は、この技術を用いてI型PKSの大環状化機構を応用することで、分子構造の多様性を拡張することを目的としています。これまで技術的問題によりあまり応用されてこなかった生合成機構を活用することで、新しい物質生産機構を創出できると期待しています。